会津地方のソウルフード”こづゆ”に込められた思い

会津地方のソウルフード”こづゆ”に込められた思い

新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
昨年までは、ガジェットやIT系の情報をメインに発信してきましたが、今年は趣味の料理についても記事を書いていきたいと思います。

私は、大学時代に4年間和食のお店で働いたことをきっかけに料理の素晴らしさを再認識し、現在も趣味として料理を楽しんでいます。当時、料理に関する資格もいくつか取得し、いくつか料理に関する講演会やワークショップなども行っているので、完全な素人ではありませんが、あくまで趣味の範囲を出ない立ち位置で書いていきます。

少しでも、料理の楽しさ、奥深さを感じて頂ければ嬉しいです。

郷土料理は、調べても正解のレシピにたどり着けない

みなさんが住んでいるそれぞれの地域にも郷土料理があるように、私の住む会津(福島県)にもたくさんの郷土料理があります。その多くは、冠婚葬祭やお正月など親戚が集まる場において振る舞われることが多いのではないでしょうか?

郷土料理の特徴として、母親やおばあちゃんなど親戚から口伝えで教わることが多いように感じます。今年の年末年始のように実家に帰ることができず、懐かしの味を自分で作ろうとググった方も、思うように求めている回答にたどり着かなかったのではないでしょうか?
調べれば何でもわかるようになった便利な現代においても、サイトによって紹介している作り方が少しずつ違っていて、The王道というレシピにたどり着けないことは郷土料理においてはよくあります。

それぞれ異なるレシピがたくさんあげられている中で、郷土料理を作る上で大切にしてほしいことは次の2つです。

  • その料理がこの地で食べられるようになった背景を理解すること
  • 食べるシーン、食べ方など作り方以外の付随情報も合わせて理解すること

インターネット上に上がっている単なるレシピを見て満足できないのは、郷土料理はそれぞれの家庭の色が濃く出やすいためです。
そのため、この部分を理解することが郷土料理をつくる第一歩で、味はもちろん気分的に満足のいく郷土料理を作るために必要になってくると思います。

会津の郷土料理”こづゆ”が生まれた背景

では、私の地元会津(福島県)の郷土料理”こづゆ”を例に挙げてみていきましょう。

“こづゆ”をおいしく作るために知らなくてはいけないことは、入れるべき具材や切り方、順番などではありません。
多くの方は、このレシピを追いかけたくなるかと思いますが、自分が経験として食べていたものや調べたサイトによって具材が違ったり、分量が違ったりして困惑してしまいます。

大切なのは、”こづゆ”がこの地で食べられるようになった背景を正しく理解することです。

郷土料理は、現代ほど物流が発達していなかった時代から伝えられていることがほとんどなので、その地域の特色が色濃く残ります。

例に挙げた私の地元会津は、盆地で海が近くにありません。
そのため、おいしい山菜は採れるものの、新鮮な魚は簡単には手に入らないという立地的背景があります。

また物流の時代背景を見ていくと、近江商人が北海道で仕入れた魚介を日本海側の沿岸の港で売り、その地の特産品を買って次の港に向かうという「のこぎり商売」と言われる商売が盛んでした。
そこで仕入れた貝柱を乾燥させたものを会津の人は買って地元に持ち帰っていたのでしょう。もちろん新鮮な生魚は会津に運ぶ過程で悪くなってしまうため、乾燥させたものを運ぶというのが大きなポイントです。

この乾燥させた貝柱から出汁をとって作る”こづゆ”は、海鮮が手に入らない会津での精いっぱいのごちそうになったと考えられます。
同じように、貝柱を出汁として使う料理が日本海側の山地で今も食べられていることから、会津と同じような経緯で料理が作られていたと考えられます。

近隣だけでも、青森の「けの汁」、山形の「つぶつぶ煮」、新潟の「のっぺい汁」など多数存在します。

会津で食べられる”こづゆ”のルーツに迫る!

「乾燥させた貝柱を出汁に使う」という”こづゆ”の最も大きな特徴ですが、既に触れたように似た環境から生まれた郷土料理がいくつもあります。

次は会津の”こづゆ”のルーツを見ていこうと思います。

“こづゆ”のルーツは雲片(うんぺん)という精進料理

会津の”こづゆ”が庶民の間で楽しまれる前までは、武家料理として食べられていたといいます。その武家料理は、お寺などで食べられていた精進料理が元になっているとされています。
お寺で食べられていたことからもわかる通り、仏教と一緒に中国からやってきた文化であることから『こづゆ』の先祖となる料理は中国にありそうです。

中国料理といえば麻婆豆腐やエビチリなど華やかなイメージがあるかと思いますが、当然中国で庶民が食べていた料理がすべてそうだったわけではありません。

そんな中国の庶民料理の中に、雲片(うんぺん)という料理が”こづゆ”のルーツなのではないかという説が有力であると私は思っています。

雲片(うんぺん)とはどのような料理なのか、精進料理のレシピを紹介するサイト「真言宗豊山派 金剛院 公式サイト」によるとこのように書かれています。

「この料理は雲片(うんぺん)と言う。君の捨てた野菜の切れ端はゴミではないよ、雲のかけらだ。君は気が付かないけど、小さい野菜一つ一つにどれ程大きな大地の恵みが含まれている事か。 その恵みを、一つも無駄にせずに使わせて頂く事が精進料理を作ることだよ。感謝の心無く、料理が上手くなろう。美味しいものを作ろうとしてもだめだよ」

真言宗豊山派 金剛院 公式サイト

つまり、実際に中に入れる具材等が予め決まっているものではなく、他の料理で使った材料の端材等を残さず使って調理するもののようです。
ここがルーツと考えると、”こづゆ”も材料に厳密な決まりはなく食材の旬やその時ある材料を使った家庭や地域ごとの特色があるのも理解できます。

会津人としての粋を現した”こづゆ”

“こづゆ”の具材の種類は、なんでもいいということですが、料理は旬の食材を使うのが基本。
お正月に食べられることが多かった”こづゆ”は、冬の保存食として蓄えられていたサトイモや乾燥きくらげなどを使うことが多いです。
各家庭ごとに多少の差はあるにしても、食材の保存技術が上がったで現代でも当時のお正月の時期に食べられていた具材に寄せて作ることが多いですよね。

また、会津の”こづゆ”は、こづゆは専用のこづゆ椀と呼ばれる、小さく浅い会津塗の朱塗の器に盛られて振る舞われることが多いです。
これは、「豪華な料理は用意できませんでしたが、これなら何杯でもおかわりして下さい。」という気持ちを表しており、正式な祝いの席でお代わりを申し出ても無礼には当たらないという会津ルールが存在します。

最後になりますが、食材の種類について奇数の方が縁起がいいということで、食材数について意識して最後に青菜を散らしたりしながら調整することもあるようです。
これは比較的新しく言われ始めたもので後付けのようなルールですが、個人的には意識するようにしています。

“こづゆ”を作るときのポイントをまとめてみた

普段、料理を作るときに意識するようにはしていますが、郷土料理は特にこの作られた背景や、料理に含ませた想いを意識することが重要だと自分自身再認識させられました!

改めて今回のをまとめると以下のようになります。

  • 『こづゆ』の大きな特徴として、貝柱を出汁に使う。
  • 具材については、自由(季節や状況によって変えてよい)。
  • 食材への感謝を忘れない(元は材料の端材を使う料理である)。

このほか、周辺知識として以下の2つも知っていると良いかなと思います。

  • 具材の数の決まりは後付け説濃厚だが面白いから意識したい
  • 会津人のおもてなしの心は受け継ぎたい

これらを踏まえると、郷土料理というだけでハードルが上がりがちですが、そもそも料理とは材料やレシピに縛られることなくもっと自由に作っていいものです。
また、郷土料理を伝えていく際には材料やレシピだけでなく、その料理が生まれた背景やその料理が持つ意味合いを一緒に伝え、料理だけでなく心も一緒に受け継いでいく必要があると思いました。


この記事を書いてみての感想

今回、コロナウイルス蔓延をきっかけに実家に帰ることを断念した友人が、正月に食べていた郷土料理を自分で初めて作るという挑戦をするという話をきっかけに”こづゆ”について改めて考え記事にしてみました。

決してプロではない私でも普段、自分が意識している料理への向き合い方や考え方は、意外にも需要があると気づかされました。今後は、このような料理関連の記事も書いていきたいと思います。